ドキュメンタリー映画「ゲンボとタシの夢見るブータン」試写会に行ってきた
ブータン人作家によるドキュメンタリー映画
「ゲンボとタシの夢見るブータン」のマスコミ試写会に招待していただいたので、見てきた。
正直、あまり期待せずに見に行ったんだけど、
今まで見たブータン映画の中で一番よかった!
ストーリー、コンセプト、構図の美しさ、メッセージ、どれをとっても非常に完成度が高い映画だった。
どんな映画だったのか簡単に紹介したいと思う。
舞台は中央ブータン、ブムタン県にあるチャカル・ラカンという小さな寺院。
そこで暮らす家族の物語だ。
主人公ゲンボ(16歳)は、先祖代々受け継がれてきた寺院を引き継ぐため、学校を辞め僧院学校に行くことを思い悩んでいた。
父親テンジンは寺院と家族の暮らしを守るためにも、長男であるゲンボに寺院のことや仏教の教えを説き続ける。
しかし、ゲンボは出家することにあまり興味がなく、それ以外の生き方があるのではと葛藤していた。しかし、それを言葉にすることができず父にも伝えられない。
ゲンボの妹のタシはトランスジェンダー。
自分が男であると信じ、女性の服装を切ることが大嫌いだった。
ブータン代表サッカー選手になることを夢見ていて、合宿にも参加。
しかし結果を残せずに挫折してしまう。
男らしいタシを見て、父親テンジンはタシに女の子らしく生きさせようとしてしまう。
親たちは子どもたちに幸せになってほしい思いあれこれするのだけど、
子どもたちは違う方向を見てしまう。
そしてお互いの想いが静かに衝突する。
将来の選択について迫られている家族の葛藤を描いた作品だ。
ぼくが一番印象に残っているのは映画の終盤、父親テンジンが、ゲンボを連れて僧院学校を見学へでかけるシーンだ。
息子を僧院学校へ入学させたい熱い想いを教師たちに伝えるのだが、
「今は昔と違い、自分の将来は自分が描く時代だ。子どもたち夢や希望も昔とは違う。出家を強制すると彼らの将来を壊しかねない」
と冷静に返答されてしまう。
それを聞いて気を落とす父親と、複雑な表情を浮かべるゲンボ。
僧院学校から帰ってきても、父テンジンはゲンボに僧侶になることを説得し続ける。
仏教の正論を次から次へと、そして長々と聞かされるゲンボは黙り込むしかない。
父の想いに押しつぶされそうになるゲンボの複雑な表情を見ていて、ぼくも自身も息ぐるしくなってしまった。
教員をやめて写真家になることを伝えたとき、家族の落胆する顔とため息が思い出されたからだ。
親の期待に応えようとしたんだけど、自分に嘘をつくことができなかった。
今でも時々父から地元に帰ってきてほしい、と言われることがある。
その父の想いがいつも心のどこかで重くのしかかってくる。
先祖代々受け継がれてきた土地や親の呪縛からぼく自身も抜け出すことができていない。
今でも「ぼくはぼくの生き方があるんだ」と父の想いをかき消しながら生活している。
これはブータンだけでなく、我が家でも抱える問題だった。
映画見ていて、ぼくの家族のこともえぐられたようだった。
だからこそ、心に深く刻まれる作品だった。
ゲンボもぼくもいつか向き合わなくてはならないときがくるんだろうなぁ。
映画監督はブータン出身のアルム・バッタライさんとハンガリー出身のドロッチャ・ズルボーさん。
共同監督、そして初監督となった今回の作品は国をまたぐ6つの財団から製作資金を集めることに成功。
多くの人々の理解と期待があり完成した映画なのだ。
その期待の新人映画監督2人が、7/9(月)〜7/22(日)まで来日するそうです。
7/9(月)11:00~19:00
7/10(火)11:00~19:00
7/11(水)11:00~19:00
ポレポレ東中野1Fカフェ「ポレポレ座」に滞在。
もしも映画について聞きたいことがある!取材したいなどあれば、
映画を配給しているサニーフィルム(有田さん)にお問い合わせしてみてください。
arita.kohsuke@gmail.com サニーフィルムweb https://www.sunny-film.com
映画は8/18(土)よりポレポレ東中野ほか全国ロードショーが決まっているそうです。
ご期待ください。
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